街のはずれに、雨の日にしか開かない観測所がある。

研究員たちは空ではなく、傘に落ちる音を測っている。 「ぽつ」「さら」「どっ」といった擬音を、 古い楽譜みたいな五線紙に書き込んでいくのだ。

ある日、観測記録の最後に見慣れない音が現れた。

「ただいま」

それは雨音の形をしていたけれど、たしかに言葉だった。

それ以来、観測所では帰る場所を見失った人が来るたびに、 その人専用の雨を降らせる実験をしている。

家の匂いに似た雨。 湯気の立つ味噌汁みたいな雨。 子どものころの廊下みたいな雨。

帰り道がわからない夜には、 天気予報より先に、自分の心に聞いてみる。

今日は、どんな雨が降れば帰れますか。