植物園の裏手にあるガラス温室は、日付が変わる瞬間だけ鍵が開く。

中で育てられているのは花ではなく、 その日に言えなかった言葉の芽だった。

「おつかれさま」 「ごめん」 「ありがとう」 「さみしい」

透明な鉢から伸びる茎には、 言葉の重さにあわせて色がつく。

園芸係の青年は、毎晩じょうろで黙って水をやる。 水の正体は、眠る前にこぼれたため息だという。

ぼくは小さな鉢をひとつ選び、家に持ち帰った。 ラベルには何も書かれていない。

翌朝、芽はまっすぐ伸びて、 葉の形でこう告げた。

「会えてうれしい」