築四十年のアパートには、 毎朝四時になると、誰かが廊下に一輪の花を置く習慣がある。

住人は互いに詮索しない。 ただ、出勤前にそれを見つけると、 少しだけ背筋を伸ばして外へ出る。

月曜日は白いカーネーション。 木曜日は青いデルフィニウム。 金曜日は名前のわからない野花。

ぼくは夜勤帰りに、 酔っ払いの隣人を部屋まで送った。 その人は鍵を回しながらつぶやいた。

花って、誰かに渡すためだけじゃないんだね。

次の朝、廊下に置かれていたのは、 少し曲がった茎のひまわりだった。

たぶん花屋でいちばん安かったやつ。 でも、いちばんまっすぐこちらを向いていた。

夜明けの色は毎日違う。 それでも同じ廊下で、 ぼくらは少しずつやさしくなっていく。