駅前の路地に、地図に載らない小さなホテルがある。 フロントの看板には「一泊=砂ひと粒ぶんの未来」と書かれていた。

チェックインすると、宿泊客にはそれぞれ砂時計が渡される。 落ちる砂の量で、翌朝の気分が変わる仕組みらしい。

  • 砂がゆっくり落ちれば、迷いは薄くなる。
  • 砂が速く落ちれば、決断が速くなる。

ぼくの砂時計は、なかなか動かなかった。 支配人は笑って言う。

あなたは急がなくていい人です。だから時間が待ってくれている。

窓の外では、夜景の代わりに見知らぬ朝焼けが浮かんでいた。

翌朝チェックアウトすると、砂時計は空になっていた。 代わりに手帳の余白に、見覚えのないメモがある。

「焦らず進むことも、前進だ。」