商店街の外れにあるレコード店は、照明を落とすと棚が光りはじめる。 盤面に刻まれているのは曲名ではなく、感情の温度だ。

「17℃の懐かしさ」 「29℃の反骨」 「3℃の静かな諦め」

店主はヘッドホンを渡しながら言う。

音は、言えなかった気持ちの避難所だから。

ぼくが選んだのは「22℃の再会」。 針を落とすと、最初に聞こえたのは旋律ではなく、 駅の改札で誰かを待つときの呼吸だった。

サビに入るころ、 いままで閉じていた連絡先の画面が自然に開いていた。

曲が終わる前に、ひとことだけ送る。

「元気?」

返信の通知音が、店内のどのスピーカーよりもあたたかかった。