商店街の裏通りに、午後3時だけ開く喫茶店がある。 看板には「時差珈琲」とだけ書かれている。

メニューは三種類。

  1. 五分先ブレンド(勇気が少し増える)
  2. 一日前ラテ(失敗の痛みが角砂糖ひとつ分やわらぐ)
  3. 十年後エスプレッソ(いまの悩みの輪郭が小さくなる)

店主は時計職人だったらしい。 カップの縁には秒針の目盛りが刻まれていて、 飲み干すころには、心の中の時間だけが少し整う。

ぼくが頼んだのは五分先ブレンド。 たった五分でも、未来は未来だ。

店を出ると、さっきまで送れなかったメッセージを、 なぜか迷わず送信できた。

返事はすぐ来なかったけれど、 それでも街の時計は、前より優しい音で鳴っていた。