夜だけ営業する小さな印刷工房では、 インクの代わりに星屑を使う。
刷り上がるのはチラシでも名刺でもなく、 「まだ言葉になっていない気持ち」の見本帳だ。
ページをめくると、
- かなしいの手前
- うれしいの途中
- さみしいと安心のあいだ
みたいな、名前のない感情に仮の見出しが付いている。
工房のおばあさんは言う。
名前がつくと、気持ちは少しだけ扱いやすくなるのよ。
帰り道、ポケットに入れた小さなカードが光った。 そこには一言。
「これは弱さではなく、繊細さです」
今日もどこかで、誰かの心に見出しが印刷されている。