終点のさらに先に、時刻表にないバス停がある。 名前は「夢見ヶ丘」。
そこに停まるバスの行き先は、地名ではなく状態だ。
- 「少し元気」行き
- 「ちゃんと休める」行き
- 「また挑戦できる」行き
運転手は制服の胸ポケットに色鉛筆を挿していて、 乗客に一枚ずつ白紙の乗車券を渡す。
「降りる場所は、自分で描いてください」
ぼくは震える手で、小さな公園を描いた。 ブランコがあって、木陰があって、 だれにも急かされない午後がある場所。
次の停留所で降りると、 そこは実在の街角なのに、空気だけが少しやさしかった。
ベンチに座っていると、ポケットから未使用の乗車券がもう一枚出てきた。 裏面には運転手の文字。
「いつでも戻っておいで」